上り列車・下り列車の本当の意味

意外と説明できない
上り・下り





「上り列車」はどこに行くのか

よく聞く「上り列車がまいります」と言うフレーズ。一方で「言いたいことは分かるけどうまく言葉で説明できない」という方も多いのではないでしょうか。知っているようで意外と曖昧な、鉄道の「上り・下り」のお話。

都会に行く方が上り」ではない

日本民営鉄道協会では、「上り・下り」について以下のように定義されています。

 都市郊外と都市部を結ぶ鉄道では、「上り」「下り」の表現が用いられます。「上り電車」は、終点から起点へと向かう電車で、「下り」はその逆方向に向かう電車を指します。

日本民営鉄道協会HPより (http://www.mintetsu.or.jp)

つまり、「都会に行く方が上り」と言うのは微妙に間違っています。とはいえ、起点は都市部に据える会社がほとんどですから、事実上「都会に向かう方が上り」として定着しているということのようです。

起点も鉄道会社につき一つ、というわけでもないようです。例えば、阪急電鉄では同じ「梅田行き」でも神戸線と宝塚線は「上り」、京都線では「下り」とされています。また、JR武蔵野線は府中本町方面が「上り」で、西船橋方面が「下り」です。つまり、東京行きの電車が「下り列車」になります。ちなみに、高速道路でも同じ理由で上り下りが決められているそうです。

消えゆく「上り列車」

路線としての「起点」は変わらず残っていますから、「上り・下り」は現在も健在です。しかし、駅や車内の案内で「上り列車」や「下り方面」といった案内は数を減らしつつあります。

かつての「上り・下り」という表現は、一言で伝わる便利な言葉でした。高崎・東北・常磐線なら「上野行き」、東海道線なら「東京行き」を指すことがほとんどで、駅の自動放送も「上り列車がまいります」としか言っていませんでした。

現在は分岐や行先が多岐に渡ります。東京近郊では、他の路線に乗り入れない路線の方が少なくなりました。2015年には「上野東京ライン」が開業し、上野駅や東京駅も今や「途中駅」の時代です。始発駅では上り列車だったのに途中から下り列車に変わる、ということが頻繁に起こるようになりました。便利だったはずの「上り・下り」と言う表現も、いつの間にか分かりづらい表現になってしまいました。

「上り・下り」と言う表現に代わって、現在では「上野方面・東京方面」と言った表現がよく使われています。駅の案内も「宇都宮線上り」から「宇都宮線 大宮・上野・新宿方面」といった表示の方が多く見るようになりました。

「上り」の表現はない

色々ある「上り下り」

余談ですが、他にも「上り・下り」のような表現があります。

・A線/B線(えーせん/びーせん)
 東京メトロ・JR中央・総武緩行線など
 方向は路線による

・北行/南行(ほっこう/なんこう)
 JR京浜東北線・上野東京ラインなど
 北に向かうのが北行

・東行/西行(とうこう/さいこう)
 都営地下鉄新宿線など
 東に向かうのが東行

・内回り/外回り(うちまわり/そとまわり)
 JR山手線・JR大阪環状線など
 時計回りが外回り

・右回り/左回り(みぎまわり/ひだりまわり)
 名古屋市営地下鉄名城線
 時計回りが右回り

・北上/南下
 台湾高速鉄道
 北に向かうのが北上
 
・上行/下行 
 韓国・中国
 ソウル・北京に向かうのが上行

・Up Train / Down Train
 イギリス
 都市部に向かうのがUp

・Inbound / Outbound
 アメリカ
 都市部に向かうのがInbound

・Uptown / Downtown
 ニューヨーク市地下鉄
 マンハッタン北部に向かうのがUp

「上り・下りという表現は日本的なもの」と言う意見を見かけることがありますが、国外にも対応した表現はたくさんあります。イギリスに至っては、UpとDownなので日本ととても近い表現です。そもそも鉄道はイギリスから伝わったものですから、当然かもしれません。

個人的には「内回り・外回り」の表現は気になるところです。「上り・下り」以上に分かりづらいと思っています。日本の鉄道は、車と同じく原則左側通行です。円を周るときに「外側を走る」から外回りなのですが、以前から「外回りってどっち」という話題は尽きません。英語でも直訳で「Inner / Outer Tracks」と言う表現が使われているようですが、そもそも左側通行でない国もあり(と言うより右側通行の方が圧倒的に多い)、直感的ではありません。筆者は玄人っぽい響きなので結構好きですが、名城線の「右回り・左回り」が最適な表現だと感じています。

まとめ

利便性が向上する一方で、駅も列車もどんどん複雑になる現在。古き良き「ざっくりとした」表現は、今後も姿を変えていくことでしょう。言葉はその時代の背景や生活を表す歴史そのものです。古文や教科書の中の世界だけではなく、身近なところに「言葉の変化」を感じる瞬間は溢れています。優劣ではなく、その時代と環境に合った言葉を選び、正しく伝わるようにしていきたいものです。


迷うことがないようどの路線も
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詳しくは各社のサイトをご覧ください。

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東京で暮らす会社員です。
都市や交通について気ままに発信しています。
それなりにリアルかと思います。

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