文系の社会人が「電気工事士」を独学で取得した話〜②技能試験編〜

コツコツ続ければ知識は身に付く
「第二種電気工事士」の取得を独学で目指す方へ





目次

きっかけは「何となく」

  1. 文系社会人
  2. 仕事では使わない
  3. 役立ちそうだし書ける資格が増える
こんな感じの配線図を山ほど
書くようになる
(よくこんな図で受かったものです)

筆者は典型的な文系社会人です。

「数Ⅱ」で躓いた人です。大学でも、とにかく文字ばっかり読んでいました。当然、仕事でも電卓や図面を使うようなことはほとんどありません。ただ、手足を動かして工具や道具を使うのは好きです。できることなら自分で組み立てられるものは組み立てて、直せるものは直したい性分です。つまり、役立ちそうな資格が欲しいときに「電気工事士」という響きに惹かれて、何となく勉強を始めたわけです。

そんな気楽なノリですから、専門講習にお金と時間をかけるつもりはなく最後まで独学でやりました。そのときの経験談をお伝えしていきます。
引き続き「技能試験編」です。

技能試験で問われるモノ

  • 指示通りに材料を組み立てられるか(書かれている部分)
  • 定められた規格を守っているか(書かれていない部分)
  • 時間通りに組み立て終えられるか
ざっくりこんな感じの出題
本番はもう少し細かい

ざっくり言うと、問われているのは大きく上の3つです。
詳細な合否判定基準は公式サイトに載っていますので、そちらを必ずご確認ください。

技能試験では、「この通りに組み立てなさい」という課題と「この中の材料を使いなさい」という材料一式が配られます。課題の指示に従って、材料を選び、制限時間内に組み上げるという単純なものです。だからこそ、知識や技能、練習の練度が露骨に出ます。たまたま運が良かった、みたいな感じで受かるものではありませんでした。逆に言えば、回数を重ねていけば確実に合格基準に達することができるはずです。

以下、3つの「問われるモノ」に対する筆者の対策法と、試験での様子をお伝えしていきます。

技能試験に向けて参考にした教材

  • HOZANの「第二種電工試験の虎」
  • 猫電

工具や練習材料は必須ですが、技能試験に向けて「教材」として購入したものはありません。すべて無料で提供されている情報や動画を参考に、技能を高めていきました。

まず、メイン教材として使用したのが、工具メーカー「HOZAN(ホーザン)」が公式サイト上で公開している「第二種電工試験の虎」です。百聞は一見にしかず、です。無料とは思えない充実の内容となっています。解説付きで課題を組み立てる動画は何度も繰り返し見ました。

引き続き「猫電」さんのサイトも参考にしました。しかし、技能に関してはほとんど「第二種電工試験の虎」でカバーできたと思います。どちらかというと「心構え」的な部分を学んだ感じです。

ちなみに筆記試験で使用した「すい〜っと」シリーズは、技能試験版もあります。

筆記試験に向けて購入した工具・材料

  • 「HOZAN 電気工事士技能試験工具セット基本工具+P-958VVFストリッパーDK-28ハンドブック付」
  • ヤフオクで買った「第二種電気工事士練習セット」

技能試験では工具は持参です。
工具がなけれな練習もできませんし、「後戻りできない」ようにしたかったので、筆者は筆記試験前に購入しました。

筆者は「ホーザン(HOZAN) 電気工事士技能試験工具セット 基本工具+P-958VVFストリッパー DK-28 ハンドブック付」を購入しました。本番でも「あれも持ってくれば良かった」みたいなことはなかったので、今後仕事で毎日使う方でなければ、無駄のないセットだと思います。強いていうなら、筆者は「布尺」ではなく元々持っていたスチール製の「直尺」を持っていきました。尺はしっかり伸びていてほしい、というだけの理由なので、好みの問題です。

練習に使うケーブルやコンセントなどの材料は、ヤフオクで見繕って購入しました。なんでも買える世の中で助かります。電気関係の本職の方が、余った材料や大量に卸すスケールを活かして出品されていました。Amazonでも売っていますが、全体的にヤフオクの方が安かったです。オークションとはいえ、超マニアックな商品なだけに価格もほぼ上がりません。

工具・材料について思うこと

  • イチから揃えるより「セット」がおすすめ
  • 材料をしまう箱もあった方がいい
雰囲気にテンションも上がる

筆者は工具も練習材用も「セット売り」のものを買いました。

実は、当初はホームセンターですべて買い揃えようと考えていました。実際、ホームセンターまで行きました。必要な工具や材料をきちんとメモして行ったのですが、半分くらい見つけたところでもうお手上げ、すべて棚に戻して帰ってしまいました。見つけられないものや、置いていないものが多すぎたからです。また、見つけたものでも「明らかにこれ」なのに名前が全然違う、ということもありました。価格面でもヤフオクの方が安くあがることが確実でした。

自分で材料を見繕うのは楽しかったので無駄だったとは思いませんが、最短で効率よく対策したい方は、セット買いをおすすめします。自分で選ぶ手間と時間を節約できますし、内容に間違いもありません。実際買おうとしていた「引掛シーリング」は本来必要なものではありませんでした(引掛シーリングは技能試験で避けては通れない)。

あとは、工具をしまう「工具箱」とは別に「材料箱」もあった方が良いかもしれません。初めのうちは、特にケーブルの種類を見分けづらいと思います。誤った練習をしないように、まずは材料を区別して保管するといいと思います。

技能試験に向けての練習方

  • 「HOZAN」の動画をひたすら真似する
  • はじめは「速さよりも質」
  • 仕上げは「質よりも速さ」
この作業が一番苦手

基本的には「HOZAN」の動画を見ながら、一緒に手を動かし「動き」を覚えていきました。

技能試験の問題は事前に「公表」されます。「そんなの余裕じゃん」と思うかもしれませんが、候補は13問あります。その内のどれか一つが出題されるわけです。一つひとつはそこまで難しくありませんが、13問となると練習する回数も限られてきます。材料にも限りがあります。一回の練習でいかに効率よく学習できるかどうかが、合格への鍵と言っても過言ではないでしょう。

筆者は、動画に従ってまずは13問全ての課題を作成しました。分からないところは動画を止め、調べながら、ゆっくりと確実に行いました。まずは「完成形の正解」をしっかりと焼き付ける感じです。独学なので、間違っていても誰も教えてくれません。ここを間違えていてはその後の努力がまったくの無駄になります。もしも独学で進める方ならば、自分の完成品と本来の完成品をしっかり見比べて、正しい正解に辿り着けるようにしましょう。どんなに時間が掛かっても1回目は確実に行うことが大切です。それぞれの課題に気を付けるべきポイントはありますが、引っかけたり騙してきたりすることはありません。

完成形が分かったら、後は時間との勝負です。技能試験の制限時間は40分です。初めのうちは「全然終わらない」です。「猫電」さんも仰っていますが「不合格者の大半は、作品の未完成」です。筆者が初めて制限時間を設けて行った練習では、課題の半分も終わりませんでした。電気工事士試験全体を通して、初めて「やばい」と思いました。それからは、ひたすら練習するのみ。HOZANの動画だとかなり余裕を持って終えている感じですが、筆者は最後までギリギリでした。1分前に終われば良い方です。

それでも何とか時間内に収まるようになったわけですが、裏技や高等テクを身につけたわけではありません。図面を見て正解を素早くイメージし、ケーブルを切る速さを上げ、無駄な動きを徹底的に省くのみ、精度と速度を上げるのみです。それ以外に方法はありません。ただひたすらに、ケーブルを10㎝になるように切ったり、ケーブルの被覆を20mm分だけ剥いたりしたこともありました(単純ですが意外と難しい)。恐ろしく地味な光景です。結果として、試験本番では「切ったり剥いたり」する作業ではストレスなく終えることができました。ということは、それ以外でミスをしてしまったわけですが……。

技能試験本番

  • 机が狭い
  • あれ、違くない…?
  • 大いなる勘違い
こんな感じでグシャッと

「会場の机が狭いらしい」というのは事前に聞いていましたが、想像以上に狭かったです。何もない最初は「思ってたよりは広いな」と思っていましたが、問題用紙や材料が配られると、どんどんスペースがなくなっていきました。隣の人にも少し気を遣うくらい。実際の施工現場は選ぶことは出来ませんから、限られた環境の中で技術が発揮できないといけないのでしょう。

いよいよ技能試験開始。課題は当然候補問題から出題されましたので、慌てるようなことはありません。平常心を保ちつつ「オーバーペースかな」くらいの速さで作業を進めます。課題だった3芯線の被覆剥き(3線分のケーブルの皮を同時に剥く。1本ずつではとても間に合わない)も滞りなく済み、かなり順調です。想定していた向きとコンセントが逆になってしまいましたが、配線自体が合っていれば重大欠陥(一発で不合格)にならないところでしたので、そのまま仕上げに向かいます。この「一発アウト」の基準も事前に公表されますので、必ずチェックしましょう。もしこだわりを捨てきれなかったり判定基準を理解していなかったりして、修正していたら確実に間に合っていませんでした。

そして終盤。後はバラバラになっているケーブル線を繋ぐだけです。繋ぐと言っても、コンセントのようにサクッと受け口があるわけではなく、4本の線を円柱の中に入れ、円柱ごと押しつぶして圧着するというものです。そして、最後の圧着を終え、無事に作業終了。試験終了まであと3分。危ないところでした。ホッと一息ついたのも束の間、見直しを始めてわずか数秒で「ブワッ」と身体中から汗が吹き出したことをよく覚えています。

筆者が受けた試験では、ケーブル同士を接続する箇所が計4ヶ所ありました。そのうちの1組の線を逆に繋いでしまったのです(Aで繋がなければいけないものをBに、Bに繋がなければいけないものをAに入れた)。しかも、そのAは先ほど4本の線を繋いだ「圧着」部分でした。修正するためには圧着した「円柱ごと」切り落とさなければいけません。もう頭は真っ白。しかし配線ミスは重大欠陥。修正しないのはあり得ません。周囲の目もはばからず、ガチャガチャと音を立てて修正します(ギリギリまで作業している受験者は他にもたくさんいる)。

凡ミス中の凡ミス。自分自身に激しい怒りを覚えながらも、時は終了時刻を迎えます。3、2、1……。しかし、終了の案内が流れません。周囲も作業を続けています。

実はこのとき、筆者は終了時間を5分早く勘違いしていたのです。「5分前に終わらせよう」という意識が、いつの間にか5分前が終了時刻だと思い込んでいました。我ながらあり得ないなと思いますが、それほどまでにギリギリの勝負だったということにしておきます。終了後、しばらく動けませんでした。

修正が容易だったのも幸いしました。技能試験では「配線図に示された寸法の50%以下」の誤差があると重大欠陥となります。つまり「10cm」という指定であれば1、2cm長さが違っても何の問題もないわけです。誤った線だけどうにかしようと思うのではなく、バッサリと円柱を切り捨てて接続丸ごと解除します。その方が早く済むからです。厳密な長さを気にしていては、絶対に間に合いません。これも練習で経験したミスでした。
終了時間を勘違いしていたのはいただけませんが、失敗の経験を十分に活かしカバーすることができたと思います。こうして、何とか技能試験を終えることができました。

技能試験を終えて

  • 物の配置は決めておく
  • 周りの目は気にしない
  • 「絶対に譲れないライン」を正しく把握する
お決まりの向き

技能試験を終えて「こうすればもっと上手くいったかな」という点をお伝えします。

まず、物の配置は決めておいた方が良いです。器具で言えば、定規は手前に置く、ニッパー類は右側、ゴミは左側といった感じ。ケーブルを切ったり皮を剥く器具については「使い終えたらこの面を上に向けて、必ず開いておく」と決めていました。ちょっとした気遣いですが、その1秒にも満たない積み重ねが、合否を分けることになるかもしれません。特に、試験本番の机は、おそらくこれから皆さんが練習するどんな机よりも「狭い」と思います。もちろん会場によって差はあると思いますが、最も厳しい条件を想定して練習しておくことをお勧めします。あれがない、これはどこに行った、とやっている時間はありません。

もちろん、周囲の集中力を削ぐような態度や行為はいけません。しかし、「あの人めっちゃ必死になってる、往生際悪いな、とか思われるかな」みたいな羞恥心は捨てることです。最後まで諦めずがんばる人はたくさんいますし、残り10分で優雅に見直しをしている人なんてほとんどいないと思います。先に書いた通り、筆者の最後はそれはもうひどい有様でした。筆者は最前列で試験を受けており、終了間際なると大勢の監督官の方が前にやってきました。終了間際になって急に修正し始めたのですから、実際「コイツ終わったな」と思われていたでしょう。それでも、最後まで足掻いた結果、無事に合格することができました。もしも「もう無理だ」と諦めていたら、今日の結果はありません。

試験はあくまで「試験」であり、実際の「施工現場」ではありません。多少のミスがあっても、まずは合格することが最優先です。そのためには「絶対に譲れないライン」を正しく把握しておくことが必須です。

終了後、一番前の席でしたから他の受験生の作品を見ながら退席しました。お手本のように几帳面に組み立てられているのに、途中で終わってしまっている作品がありました。こだわりや体裁を捨てきれず、チャンスを逃してしまう方もいるようです。もちろん、完璧にこなしたい気持ちは筆者も同じでしたが、それで落ちてしまっては元も子もありません。試験の合否基準には「体裁の美しさ」や「指示に対する0.01mmの精度」はありません。完璧でなくとも合格基準には達します。

「絶対に譲れないライン」を把握し、できれば間違ってしまったときのリカバリーまで練習しておくと安心です。必ず事前に「合否判定基準」が公式サイトに掲載されますから、よく確認しましょう。

試験を終えて

  • 筆記と技能の切り替えを明確に
  • 試験本番までの過程こそが収穫
  • ものづくりって楽しい
自分で換えてもいいんだよ

筆記試験と技能試験で、求められるスキルが一気に変わるのが面白いところでした。もちろん、筆記試験で覚えた知識も役立ちますが、個人的には「全く別の資格試験」を受けているような気持ちでした。筆記試験の延長ではなく、気持ちを一気に切り替えて対策に乗り出せるかどうかが、一つのポイントかもしれません。

どの資格にも言えることではありますが、勉強の過程で「こんな規則があるんだ」「こんな材料が使われているんだ」と、新たな知識に触れることができました。特に電気関係はとても身近です。「周りを見渡せば試験勉強ができる」という言葉も納得で、見慣れたコンセントやスイッチについても学ぶことができます。

あくまで課題の指示に従うものなので「ものづくり」というと少しズレるかもしれませんが、工具を持ち、切ったり繋げたりするのは楽しい経験でした。取得後、家の照明をセンサー付きのものに変えたり、防犯カメラを設置したりしました。ケーブルと機器の接続は実技試験でやったことそのままなので、自信を持って作業することができました。単に「資格が欲しい」という理由から取得しましたが、実生活での恩恵が想定以上に大きく、受けてよかったと思います。

まとめ

以上、文系社会人が独学で「第二種電気工事士」の資格を取得したお話でした。
今回の筆者の経験から、文系でも独学でも、工夫次第で資格取得は可能だと考えます。

「機器の設置にあたっては電気工事士の資格が必要です」と注意書きを見るたび、「私は持ってるぞ」と少し誇らしくなります。資格取得を通して電気の性質や仕組みを理解することで、電気が更に身近なものになりました。

もはや現代社会は電気なしでは成り立ちません。だからこそ、自分で直せるものは直したいし、付けられるものは付けたいもの。知識も得られて実生活にも役立つ、素晴らしい資格です。ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。


「第二種電気工事士」については
公式サイトをご確認くださいね。

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東京で暮らす会社員です。
都市や交通について気ままに発信しています。
それなりにリアルかと思います。

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