雨水を追いかけて
今回の渋谷雨散歩の大体のルートです。
渋谷駅を中心に、ぐるりと時計回りに一周しました。
思い付きで歩き始めましたが、それなりにきれいな円になりました。
のんびり歩いたのでトータルの所要時間は2時間ほどです。
②渋谷ヒカリエ~渋谷ストリーム編からの続きです。
いざ谷の向こう側へ
星の数ほどある渋谷駅の出入口。
しかし、よく渋谷を訪れる人でも「新南改札」を使う人は少ないのではないでしょうか。
筆者は初めて来ました。
日中帯とはいえほとんど人の姿はなく、駅名がなかったら渋谷駅とは思えないほどです。
調べてみたところ、新駅舎の供用開始に伴いまもなく閉鎖されるのだそう。図らずしも訪れることができてよかったです。
以前の埼京線ホームは山手線に対して南側に大きくズレたところにありました。ハチ公方面へは「動く歩道」があるほどでしたが、現在は山手線と完全に横並びになり、出入口・乗換も大変スムーズになりました。
「新南改札」という名前は残るそうですが、渋谷ストリームと通路で直結することから、まったく別の顔となりそうですね。
線路の西側にやってきました。
奥に見える茶色のデッキが、新しい新南改札に直結するデッキです。
早速坂を発見。
予想通り、線路を境に坂の向きが逆になっています。渋谷川、そして渋谷駅が谷底であることが分かります。
デッキにやってきました。
「渋谷サクラステージ」は渋谷ヒカリエや渋谷ストリームと同じく、再開発の一環で開業した新たなランドマークです。
本物の生きた桜ではなく、桜を模したモニュメントと人工芝が敷かれたSFチックな広場です。渋谷駅の出入口から距離があるためか人の姿はまばらですが、新南改札が開業した後は多くの人で賑わうことでしょう。
サクラステージを通り過ぎると、坂にたどり着きました。
先程見たときには高架に見えましたが、一部は斜面から「地続き」の構造になっていました。そこから片や上り坂、片や下り坂の光景はまさに渋谷ならでは。どこから誰の敷地なのか、一体どこが一階なのか……とても興味深いです。
本降りの雨でしたが、ここまで水溜まりをほとんど見なかったのは側溝や下水道が整備されていることはもちろんのこと、水が行き場を失うような水平がないことを物語っています。
苦労と優しさを伺わせる、美しい段々です。
北に向かって進みます。
通りに出ると、周辺の地形がより見えてきます。写真奥が渋谷駅です。
サクラステージ辺りから薄々感じていましたが、線路の東側に比べて斜度がキツいようです。
写真奥は玉川通り(国道246号線)と首都高(3号渋谷線)です。右に曲がると渋谷駅に行きます。
当然建物は水平ですが、東西南北どこへ進んでも坂を上るか下るかしかありません。角を曲がるだけでも一苦労です。
道玄坂はもはや登山
玉川通りと首都高を跨ぐ歩道橋があります。
首都高を走っていると中々スリリングで、ガラス張りの未来的な外観が以前から気になっていました。
てっきり屋根がついているものとばかり思っていましたが、実際には雨ざらしでした。
通りを越えたらそこは道玄坂。
道玄坂と聞くとセンター街や109周辺のイメージでしたが、住所としての道玄坂は意外と広いのですね。
この辺りは飲食店が中心で、道も複雑に入り組んでいます。
映画やドラマのシーンに出てきそうな雰囲気で、どこにカメラを向けても絵になります。
そしてこの坂!
雨の日でなくても滑ってしまいそうな、ものすごい斜度です。
横から見ると、一層その凄さが分かります。
もはや登山。
筆者は写真奥から下ってきました。
うーん、下りでよかった。
坂を下り切り、再び渋谷駅にやってきました。
ここは京王井の頭線の渋谷駅で、JR渋谷駅とは別の建物です。谷はまだ続くことを示唆するかのように、改札口が一段低くなっているところが興味深いです。
おあつらえ向きの地図がありました。
右下の渋谷リバーストリートから線路を越え、桜丘町を経由し歩道橋を渡り、現在地に至ります。
「ダンジョン」と揶揄されることも多い渋谷ですが、ゲームの方がまだ分かりやすいかもしれません。
坂の街は人の街
渋谷駅を通り過ぎ、北上を続けます。
駅を境に109やセンター街方面に向かう人々が増え、渋谷らしい賑わいが現れます。
「道玄坂」はまさにこの場所を指します。
この下には、東急田園都市線が走っています。
坂の下り方を望みます。画面奥が渋谷駅です。
駅、そして渋谷川に向かって下り続けていきます。
道玄坂を超え、道玄坂小路に入ります。
素晴らしい坂に思わず足を止めます。これほどの急坂ばかりなのに、人と物が集まり続けるのは本当に不思議なことです。
他にもアングルを変えて撮影したかったのですが、冗談抜きに転んでしまいそうなのでやめました。
センター街までやってきました。通りは人でいっぱいです。
この辺の坂は落ち着いている方だったんだな、と実感します。
すぐに井の頭通りに出ます。
それにしても、これほど斜体を使いこなしている街は他にないでしょう。
宇田川周辺に入ると、再び斜度がきつくなります。
階段になっているところが多く、実質的に歩行者専用になっている道も多いです。人を中心とした道は、お店や看板との距離が近くて良い雰囲気。写真でも立ち止まって広告を眺めている人がいますが、ちょっと足を止めたりふらっとお店に立ち寄ったりしやすい構造が、渋谷の魅力を形作っているのかもしれません。
オルガン坂まで来ました。この辺りまで来ると、少し落ち着いた雰囲気です。
北上を始めてからしばらくは右(東)に向かって下り坂でしたが、次第に手前(南)に向かって下り坂が増えました。渋谷駅を過ぎてからしばらく経ちますから、谷の北の端まで来たようです。
オルガン坂をそのまま下ります。
線路を潜れば、再び上り坂に転じます。渋谷駅周辺から線路沿いに、谷が続いているのですね。
潜った先はスタートした宮下公園。
渋谷をぐるりと一周して戻ってきました。思いつきで始めた散策でしたが、想像を遥かに超える充実した時間となりました。
渋谷散歩は雨が吉
渋谷の谷を求めて始めた雨散策。
雨水のほとんどは側溝に隠れてしまいましたが、その過程の中で自然との闘いや先人たちの工夫、そして偉大な土木・建築技術に触れることができました。文献や資料を見ずとも、建物のできる前の渋谷がいかに険しい谷であったか、十分想像がつきます。
筆者にとって、渋谷はひたすらに人の多い雑多な場所というイメージであり、どちらかというとあまり近づきたくない街でした。
今回は4kmにも満たない短い散策でしたが、同じ街とは思えないほどに個性豊かな面と出会いました。2時間足らずのわずかな時間で、また近いうちに訪れたいと思うほどに興味が湧き、何より渋谷という街が好きになりました。一つひとつじっくり見ていけば、もっと面白い歴史や文化が隠れているはずです。
改めて、今回の散策ルートです。距離は約3.8kmでした。
渋谷は今この瞬間も変化を続けています。当たり前だと思っている景色も、数年後には見られなくなることでしょう。
よく渋谷を訪れる人もそうでない人も、地形と歴史に思いを馳せながら一度散策してみてはいかがでしょうか。